6/9-24
(
メンバー)粕谷和彦、田中孝奉、小野良典(記)
行動概要
7日 小野、田中、日本出国。ソウル経由でアンカレッジ着。食糧、装備の買い出し。
8日 粕谷合流。バンでタルキートナへ移動。セスナに乗るため荷物の計量。
9日 入山手続き。セスナで氷河のLanding Point(2200m)へ。登山活動開始。
13日 Basin Camp(4300m)へ入る。
17日 High Camp(5200m)へ入る。
20日 登頂。
22日 Landing Pointへ下山
24日 登山活動終了。セスナでタルキートナへ戻る。
25日 下山手続き。バンでアンカレッジへ移動。
27日 深夜、解散。小野、田中はそのまま空港へ。
28日 粕谷NYへ戻る。
29日 小野、田中、日本帰国。
6/9 曇時々雪,夜雨 Landing Point 12:30 / 7800FT 17:45
前日しそびれたNPS(National
Park Service)でのチェックインを8時に済ませ、定員4人のセスナに乗り、カヒルトナ氷河へと飛んだ。セスナには車輪とソリの両方が付いていて、飛行場にも、雪の上にも着陸できるようになっている。その切り替えを飛行中に手でやっているあたりが、なんとも原始的である。

Landing Pointにワインを埋める。登山中は禁酒だけれど、帰って来た日にはお祝い(残念会?)をしたい。1.5リットルの特大ワインだ。凍らないといいけれど。
荷物を背中とソリとに分けて、出発。一人あたり約45kgである。霧が出てきた。
氷河上を行くが、風景がなかなか動かない。規模が大きい。5時間かかって、やっとキャンプ地についた。慣れないソリ引きで随分と疲れた。
粕谷さんの持っていたガソリン缶に穴があいていたらしく、高所用の食糧にガソリンがかかってしまった。揮発させれば大丈夫だろう。
夜、想定外の雨が降った。雨は降らないと思ってフライを省略したので、冷や冷やしたが、大きな浸水はなく助かった。
夜になっても暗くならないので、睡眠薬を使った。よく眠れた。
6/10 曇のち雪 7800FT 8:00 /
9700FT 13:30
傾斜が強くなり、ソリが重い。
ガスの中を進む。標識竹がたくさんあるので道に迷うことはないが、これがなかったら、方角は全く分からないだろうと思う。助かった。5時間半で次のキャンプ地に着いた。
歯ブラシがない。昨日のキャンプ場で落としたらしい。困った。まだ2週間以上あるのに。
この日のキャンプ地は、とても印象がうすい。3人とも、よく覚えていない。鳥がいたことぐらいしか覚えていない。写真を撮ろうとしたら、逃げられてしまった。
6/11 曇一時晴れ、後雪 9700FT 8:40 /
11000FT 12:20
たくさんの人が登っている。途中で外国人のパーティーがキャンプを張っているが、なんとCDプレイヤーを持ち上げている。電源をどうするのかと思ったら、バッテリー充電用に太陽電池パネルまで持ち上げている。なんという人達だ。
歯ブラシがなく不便(不衛生?)なので、割箸とスポンジでつくる。いまいちだけど、ないよりはずっといい。
高度がだいぶ上がってきたので、睡眠薬をやめた。あまり眠れず。

6/12 晴のち一時雪 11000FT 5:10 /
Basin Camp 11:10 - 12:20 / 11000FT 15:10
荷揚げ&高所順応の日である。
早朝出発する。今回、ヘッドランプはなしである。天気はよい。早く太陽が出ないだろうか。日があたらないと大変に寒い。-15℃だ。
Windy Cornerを通る。風が強いのでこの名がついたらしいが、今日はほとんど無風で助かった。この気温で強風だったら、とても行動できないだろう。
太陽が当たってくる。今度は一転して、とても暑くなる。雪の照り返しが強烈だ。
4300mのキャンプに着いた。このキャンプは、Basin Camp、あるいはMedical Campと言われている。NPSの職員やドクターもいるし、天気予報も掲示されている。平らなよてもよいところである。
たくさんのパーティーが入っている。30張りほどあるだろうか。今日はここには泊らず、荷物を雪の中に深く埋めて、下山する。
そりを引いての初めての下山。そりは勝手に前に走って行く。引っ張られて転びそうになるわ、強い日差しでアイゼンが団子になるわで、大変な下りだった。
夕方、軽い頭痛があり、頭痛薬を飲む。
スキー、スノーシューをデポ。埋めて、旗を立てておく。

6/13 快晴 11000FT 8:10 /
Basin Camp 14:45
一日休養の予定だったが、皆調子がよいので、Basin
Campに入ることにする。とても良い天気。暑い暑い。6時間半で到着した。
キャンプを張る。ここに4泊はすることになるので、テーブルを作る。息が切れるので、ゆっくり作る。とにかくいい天気だ。Mt.Hunter とMt.Forakerがとてもきれいだ。ForakerはDenaliより低いが、難しい山らしく、登頂率はDenaliのそれ(約50%)よりずっと低く、20%程度らしい。
テーブルでごはんを食べていると、外国人が次々と食糧をソリに乗せてやってきた。何かと思うと、食糧をいらないかと言う。昨日の好天で登頂したのだろう。持って下山するくらいなら、ただで配ってしまった方がいい、というわけだ。
バター、フリーズドライのコーン、α米、チョコバーと、たくさん頂戴した。ありがたやありがたや。さっそくバターとコーンをシチューに入れて食べる。おいしい。
ダイアモンドダストが輝く。午後9時前に日が陰ると、強烈に寒くなってくる。
夜、トイレに起きる。赤い月が出ている。-25℃。夜半過ぎに風が吹いた。
6/14 快晴一時霧 Basin Camp
13:15 / FIXロープ下 15:15 – 15:30 /
Basin Camp 16:20
高所順応の日とする。
カラ荷でのんびり、4700mあたりまで登る。途中クレバスが一ヶ所口を開けている。テント村がよく見えた。私達のテントは緑色だが、緑色のテントというのは珍しい。ほとんどは黄色だ。だいぶ上からでも、よくわかる。単独登山者が意外に多い。

6/15 晴 Basin Camp 9:10
/ 16200FT 12:30 / High Camp 15:15 – 16:10 /
16200FT 17:10 /Basin Camp 18:30
高所順応、兼荷上げの日である。相変わらずいい天気である。
4700mからFIXロープを登る。ロープはしっかりしているが、足元には氷が出ている。傾斜もきつい。途中で休むことはできず、1時間半ほど登りっぱなしになる。かなり辛い。
FIXロープが終わると、稜線に出る。風が少し出てくる。ここまで来ると、Denaliの北峰が見える。主峰の南峰はまだ姿を現わさない。
ここから17200FTのHigh Campまでが長いこと。荷揚げを途中であきらめた人達のものと思われるデポ品が、たくさん埋めてあった。
ロシア語のプリントがあるテントが張られている。いろんな国から来ているのだ。
私達は何とかHigh Campまで辿り着いた。穴を掘ってデポする。旗を立てて下山。
今日は、これまでで一番疲れた。
バリエーションを登るクライマーがいた。さぞかし、しんどいだろうなあ、と思った。

6/16 晴
休養日。田中さんが雪目のようで、結膜炎を起こしているとのこと。サングラスが眼鏡のレンズの上に二重にしてかぶせるタイプのため、横からたくさんの光が入ったようだ。一日中、ゴーグル着用。よいところで、休息日となった。
6/17 晴 Basin Camp 8:00
/ 16200FT 11:10 / High Camp 13:10
天気予報は曇であったが、まだ晴れている。この好天がずっと続くとよいのだが。
今日はHigh Campへ入る日である。日の当たらないうちに出発する。寒い。しかし、日が当たると急激に暑くなる。いつものとおりだが、困ったもんだ。
昨日登頂した人々がたくさん降りてくる。おめでとうございます。
High Campは風が強い場所と聞いている。前の人が使っていた、宮殿のように立派なブロック塀のテント場が空いていた。ラッキー。使わせてもらうことにする。
6/18 雪のち晴
久しぶりに悪天。休養日とする。
5200mというのは、いるだけで疲れる高度だ。でも粕谷さんと将棋をする。長い勝負になり、敗戦。
夜、シュラフの中で、手指の感覚がないのに気がついた。やばい、凍傷だ。どうしよう。あせる私は寝返りを打った。治った。しびれていただけである。寝ぼけていただけ、とも言う。
夜、CB無線で初めて天気予報を聞いた。あまりよくない。
6/19 晴のち雪 High Camp 7:30
/ Denali Pass 9:30 / 下山路途中10:15 –
10:30 /
Denali
Pass 11:30 / Weather Station 12:15 / High Camp 13:50
朝食のラーメンがひどくガソリン臭い。田中さんは気にならないというが…。初日にガソリンがかかったものだ。揮発させても、臭いが残ってしまうようだ。
朝、気温-18℃。昨晩から6℃も上がっている。本格的に気圧の谷の前面に入ったようだ。南西の空に波状や放射状の雲が散らばっている。悪天になりそうだ。
とりあえずアタックに出る。デナリパスまでのルートは、今年からスノーバーが打たれていて、いくらか安全になっている。雪が固まらず、足元が結構悪い。
デナリパスは風がない。非常に風が強いと聞いていたのに。かえって気持ちが悪い。明らかに悪天になりそうなので、下山を開始するが、途中、「風がないのになぜ行かないのか」との意見が出た。焦って進んで得した試しはない。今日もそうかと考えると、必ずしもそうとは言い切れないが…。うまく説明できない。
もう一度山頂を目指すことにする。日本隊設営のWeather
Stationまで登り、天気が崩れてきたので再び下山。Weather
Stationは思っていたより小さな設備であった。
デナリパスに、ソリをデポしている隊がいた。ここまで、何を運び上げてきたのだろうか?
Weather Stationまで登ることで、余分に高所順応できた。一方、疲労の蓄積は増してしまった。バランスを考えると、良かったのかどうか、わからない。下から見ていたパーティーがいたとしたら、私達の行動を面白がっていただろう。そう考えると笑える。
夜、テントの外で、粕谷さんと2人して天気予報を聞く。CB無線から流れる英語は、モゴモゴしていて聞き取りにくいが、雪が続くとのこと。2人して暗くなってしまった。
今日無理してでも行くべきだったのかな、と少しだけ思った。
6/20 晴れ時々雪 High Camp 9:00
/ Denali Pass 11:20 / 山頂 16:20 – 16:35
/
Denali Pass
18:20 / High Camp 20:00
雪の予報だったが、昨日より空の状態はいい。アタックに出ることにする。
デナリパスまでは、きっちりとランニングビレイを取りながら行く。

デナリパスで、やっと山頂が見える。2つのポッコリした山の、右側が山頂だ。Weather Stationを超え、なお登る。ややガスが多いが、ひどい悪天にはならないだろう。
ルートは左へ折れ、フットボールフィールドへ。その名の通り、大きな雪原だ。こんなところでガスに巻かれたら全くルートがわからなくなりそうだが、他隊などの標識竹がたくさん立ててあるので、安心して前進する。

その後の稜線への登りがひどくきつい。写真で見たときには、緩い登りのように見えたのだが、実際はきつい傾斜だった。このあたりは標識竹が減ってくるので、ガスに巻かれると危ないだろう。早く山頂へ行ってしまいたい。先に登った人達が次々と降りてくるが、驚いたことに全て日本人だった。この天気では、外国人は登らないらしい。この日の登頂者は皆、日本人である。喜んでいいのやらよくないのやら。

稜線に到着。持参した最後の標識竹を立て、荷物をデポ。あと水平距離500m、標高差60mだ。
いくつかのアップダウンを経て、山頂らしいところに到着。視界が悪いので、本当に最高点かどうか不安だった。足元に三角点のようなものがある。米国内務省の名で、ちゃんとマッキンリーと書いてある。居合わせた日本人に写真撮影を頼んだ。彼も、撮影のため私達を待っていたようだ。背景が真っ白で、どこの写真だかさっぱりわからない。早々に下山開始。
下りは速かった。2時間ほどでデナリパス着。そのあとは、またランニングビレイをきちんととりながら降りたが、カラビナからロープをはずすのにかがむ度に、息が切れて困った。田中さんが一番元気だった。
下山後、ゼリーを食べる。固まるのに思ったより時間がかかる。おいしい。

6/21 雪 High Camp 13:50
/ 16200FT 14:50 / Basin Camp 16:20
午後から下山開始。いやいや疲れている。続々登ってくる外国人は、皆大きな荷物だ。彼らは体力が違うな、と本当に思う。
田中さんは、私のいいかげんなロープ操作に閉口しているようだ。シビアなところではないので、ちょっと我慢してもらおう。
FIXロープを降りると、ひどいガスに巻かれた。視界30mくらいだろうか。トレースがなければとても歩けない。雪が降っている。
Basin Camp着。ここを出発したときに比べると、随分と人が減っている。そろそろシーズンも終盤なのだろうか。気温0℃。また雨の心配をせねばならない。

6/22 晴 Basin Camp 9:30
/ 11000FT 13:30 – 14:10 / 9700FT 16:00 / 7800FT 17:30 /
Landing Point 21:00
寒い。寒い。-22℃。気圧と谷の背面に入ったようだ。昨夜から20℃以上の気温低下。凍りついた紐にてこずる。天気は良い。今日までアタックを待てばよかったかな、とちょっと思ったが、ガソリン味のラーメンを食べることになるので、現実的には難しかっただろう。それにしても寒い。風のせいだ。High Campは-30℃前後だろう。
下りのソリひきはしんどい。ソリが勝手に前に行ってしまう。シュリンゲをソリの下に回してブレーキにしたら、とても調子が良くなった。
いろいろな人達が上がってくる。米国内からのパーティーが多いようだが、レバノンから来ているパーティーもいた。登山を楽しむ人はいるのだ。不思議なのは、黒人が一人もいないということだ。この謎は解けていない。
3400mからは、スキー+ソリで下る。粕谷さんは、すぐにひっくり返るソリと格闘。このあたりを登ってくるときはガスの中だったのでほとんど風景が見えなかったのだが、晴れている今日になってみると、とてもよいところであることが分かった。氷河の真中を下って行くルートだ。時折、雪崩の音が響く。
それにしても、ソリをひいてスキーをするというのは容易ではない。とても滑りを楽しむなどという状況ではない。7800FTから下は、クレバスがあちこち口を開けている。怖いが、幅はそうない。スキーを履いていればまず落ちないだろうな、と少し安心できる。
最後の登り。今日の目的地、Landing
Pointが見えてからが長かった。結局11時間半かけて、Basin Campから、長さ20km、標高差2000mを下ったことになる。いつも一番元気な田中さんが、今日は一番疲れていた。彼だけスノーシューだったのだが、スキーの方が楽だったのかもしれない。
雪に埋めたワインの入った袋が、融雪で半分顔を出している。乾杯。二週間ぶりのアルコールである。明らかに飲みすぎ。
6/23 曇のち雪
早くセスナに乗って帰りたい。でも悪天でセスナは来ない。将棋3連敗。ひまだ暇だひまだ。ここが南国の海ならよかったのに。隣のテントから、トランプにはしゃぐ声が響く。
6/24 曇時々雪

霧で一杯だ。今日も飛べないかな。半ば諦めの夕刻、セスナが来ると言う。20分で準備しろと言う。
大慌てでテントを畳む。一番にセスナに乗れるかと思いきや、「1時間後」と言われ、がっかり。時折雪が舞う。気温は8℃。雪が降る温度ではない。デナリでは、高温時の雪が珍しくないようだ。照り返しで温度計が不正確なのだろうか。メカニズムを研究すると面白そうだが、もう来ることはないだろう。
私達のセスナが来た。上空は曇っていても、地上付近が晴れていれば、大丈夫らしい。
セスナに乗る。スタート。およよ、右へ曲がって行く。雪の斜面にはまってしまった。
でもパイロットは慌てない。キャンプしている人をみんな呼んできて、セスナを押す。そう、みんなで手で押して、脱出。離陸しなおし。パイロット氏曰く「年に一度はこんなことがある」、粕谷さん曰く「彼はしょっちゅうやってるよ。扱いが慣れてるから」。
そんなこんなで、夕方7時、Talkeetnaへ戻ってきた。緑を見るのは何日振りだろうか。
ピザ屋で乾杯。家族連れから、「何日かかったのか」という質問を受けた。長くかかることに驚いた様子だった。
バンクハウス泊。久しぶりのシャワー。空は今日も暗くならない。夜、雨が降った。
