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谷川岳・東尾根

2013/04/06 6:00 に 杉労HP管理者 が投稿


〜最高のコンディションで快適な雪稜クライミング〜

日 程:2013年3月15〜16日(前夜発、1泊2日)
天 候:晴れ
参加者:中島(記)、他会1名
ルート:登山指導センター〜一ノ倉沢出合〜東尾根〜国境稜線〜西黒尾根〜登山指導センター


3月15日(金) 21:00高井戸発—23:30谷川岳登山指導センター泊
3月16日(土) 2:00起床、2:30出発—3:45一ノ倉沢出合—5:30シンセンのコル—8:00国境稜線—10:30谷川岳登山指導センター




 前の週末に予定していた山行に急用で参加できず、今シーズンの雪山はこれでお終いかと思っていた矢先、以前本会に所属していたM君から突然のお誘いが入った。「急な話ですが週末に谷川・東尾根に登りませんか?」と言う。現在他会、それもわりと先鋭的な会に所属しているM君だが、それゆえ“初級のルート”では同行者を見つけにくいようだ。東尾根はここ数年行きたいと思っていたところだし、何より久々にM君と登るのは楽しみだ。

 とはいえ……。

 この時期の谷川で不安なのは雪の状態。特に今年は3月に入ってから暖かい日が続き、当然雪は緩んでいるはずで、連日続く春のような陽気に不安な数日を過ごした。前夜発日帰りで計画を立て、いよいよ今夜出発となる金曜日、谷川登山指導センターのHPには「本日も春のような陽気云々……」と掲載され、天気予報でも「週末は西日本から東日本にかけて暖かい高気圧に包まれるでしょう」と告げている。ますます雪崩の不安が増す。楽天的に考えれば既に落ちるべき雪は落ちてしまっているだろうし、日が出る前に沢を通過してしまえば稜線は問題ないとも言える。逆に悲観的な見方をすると、稜線上でも雪がグズグズでは苦労するかもしれない。そんな不安な気持ちを抱えながら出発直前に電話で相談し、「取付きまで行って、不安があったらおとなしく戻る」と確認した上で金曜夜9時、都内を出発した。
 その車中、テレビの天気予報とHPでの情報だけで“漠然とした不安”に駆られていた俺とは異なり、M君の情報は詳細だった。高層天気図によれば上空に弱い寒気が入っており、標高の高い稜線上の気温はそう上がらないはずだ、雪は締まってコンディションは期待できるという。ただし不安はその寒気の影響で昼前からガスが発生し、雪になるだろう。だから視界を奪われる前に抜けてしまいましょうというのだ。東尾根さえ抜けてしまえば肩ノ小屋もあるし、ガスで小屋が見つけられなければ雪洞を掘ってビバークしましょう、雪は降るといても弱い寒気だから吹雪くことはない、と。
 水上インターを降りコンビニで買い物を済ませ、日付が変わる30分ほど前に登山指導センターに到着。他には誰もいない。2時起床、2時30分出発という事で早々にシュラフに潜り込む。快適な指導センターで身体を安め、目覚ましと共に起床。予定どおりに出発した。
 ワカンを着けて歩き出したが、新雪もないのですぐにワカンはデポ。クラストした雪に不安も感じたためアイゼン装着で一ノ倉へ向かう。満天の星。3時45分出合着。オニギリで腹ごしらえし、すぐに一ノ沢をめざした。
 東尾根に取り付くには、一ノ倉沢に入って最初に左に伸びる一ノ沢を登るのが一般的だ(雪崩の心配があるときや下降にはその左稜が使えるという)。最初は一ノ倉沢の沢底を進むと思っていたが、出合からは右岸を巻くようにトラバースしているトレースがあり、素直にそれを追うとじきに一ノ沢に降り立った。幸い、雪はしっかりと締まっており不安は感じさせず、明るくなる前にシンセンのコルに出でしまおうと休む事なく進む。だが単調な登りが身体にきつい。斜行やフロントポインティング、ハの字の直登、カニのような横歩きなどを織り交ぜながら、ヘッデンが照らす斜面だけ眺めてただただ登る。途中、左の小さなルンゼに迷い込み、少々緊張する雪壁を灌木を頼りに這い上がって右にトラバースして再び沢底に降りた。ヘッドライトで行く手を見上げるとうっすら稜線らしき影が見えるが、そこから予想したよりも遥かに登り続けてようやくコルへと辿り着いた。5時30分。マチガ沢の向こうに天神平スキー場が明るい。
 少なくともここまでで不安要素はない。雪は締まっているし、これからは稜線上での行動だ。ヘッデンを仕舞い身支度を整え、まずは目の前の岩場に取り付く。トレースが左寄り、マチガ沢側に向かっていたが、すぐに右にラインを修正しトラバースする。直後に現れる第ニ岩峰も右からトラバース。岩場を直登するのもたやすそうだが、時間重視で雪面を進んだ。そこから第一岩峰までの雪稜は、マチガ沢側の雪庇を気にしながら進む。この頃になると日は完全に上がり青空が広がる。今のところ霧や雲の心配はないが、ビバークは避けたいので先を急ぐ。雪の上のトラバースは、傾斜に不安を感じるときはダブルアックスで横歩き、斜度の緩いところはとにかく歩く。コルで身支度を整えたときにいったん身体が冷えたせいか時々脚が軽く攣るが、そんなことに頓着してはいられない。
 200メートルの広い雪面を登りきると第一岩峰が姿を見せた。ちょうど先行パーティーがロープを出し、右から雪面を登っている最中だった。「俺達より早く出た人がいたんだ」と思いながら挨拶すると、向こうも「ずいぶん早いですね」と返事を返す。聞けば二人は夕べ、稜上でビバークしたらしい。待つぐらいなら岩峰を正面から登ろうかと思っていると、「先に行ってください」と親切な一言をいただく。遠慮なく、ロープを伸ばしていたトップの横を二人でワシワシ登らせていただいた。ちなみにこの斜面を1ピッチで登るには60メートルロープが必要だという記録を読んで背負ってきたが、結局雪質が良かったためロープを出すことはなかった。またこの時刻、斜面の上部から右寄りにかけて日差しが当たるようになっていた。
 稜上に戻り右手を見上げると、もう目の前は国境稜線だ。小さな岩場を左から一段上がり、左上の雪庇の切れ目を伺う。「俺、こういうの好きなんですよ」とM君はうれしそうに取り付くと、足場がないので慎重に両手のアックスを決めながら乗り越えていった。続くと確かに足の置き場がない。しっかりと両手を効かせて、左ひざを雪に押し付けて身体を持ち上げると、ひょいっと稜線上に飛び出した。
「わおーっ!」思わず声が飛び出した。時刻は8時。予想以上に早い。しかも無風快晴。笑顔のM君と握手し礼をいい、とりあえず山頂へ移動。小休止して記念撮影すると、のんびりと下山した。
 指導センターに戻ったのが10時30分過ぎ。濡れたものを日なたで乾かしたりしながら、ダラダラと1時間かけて荷物をまとめる。下山報告先にしていた嫁に電話を入れるとニヤニヤした声で「どうしたの、こんな早い時間に? やっぱり敗退したの?」ときたもんだ。

 山の天気は行ってみないと分からないと言う。俺も「行ってダメならすぐに諦めて戻ろう」と考え、どこまでなら敗退可能か考えながら計画を立てた。M君も「ダメならダメで、この時期の谷川がどんな感じか見ておきたい」と言い、状態が悪い場合は西黒尾根往復に切り替えようと決めていた。オプションプランを具体的にしたのも良かったと思う。ダメなら次の機会を作ればいいのだから。体力的には厳しい面もあったが、何よりもプランニングに神経を使う山行だったし、そういう意味ではいい経験になった。



(memo)
・暖かい日が続き、やはり斜面の雪はかなり落ちていた。マチガ沢側も一ノ倉沢側も、一部山肌が露出している箇所があり、春山のような雰囲気だった。
・直近の降雪がなかったせいか(5日前に天神平スキー場で20cm)、日が差してからもチリ雪崩などまったく見受けられなかった(ちょうど1年前の幽ノ沢では、日が出るとすぐにサラサラとチリ雪崩が始まった)。
・雪の状態が良かったのでロープ不要で行動し短時間で抜けられたが、おそらくこの日は最良といってもいいコンディションだった。



第一岩峰を目指し雪稜を進む。快晴です!
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