ヌメヌメの外傾スタンスに立ち込み草付に爪を突き立て捻じ切れそうなピンでランナウト。 現代スポーツクライミングの相反する全ての要素がここに― 日程:2012年9月15日~17日 メンバー:菅原、猪股(記) 9/14(金)新宿〜松本〜信濃大町 指定席が取れなかったので自由席を取るべく1時間前に並び始める。19:00発車の電車だったが、どこかの人身事故が影響して30分位遅れ、発車時刻には行列はホームへの階段の上まで伸びていた。並び始めが早かったので席は取れたが晩飯の立ち食いソバを諦めたので腹が鳴り、焚き火で食う予定だったウィンナーをバリバリ食べてしまった。22:30位に松本着。信濃大町行きは23:06で発車まで30-40分くらい時間があったので松本駅周辺をプラプラする。街は明るく賑わい路上ライブなんかもやってる。パッと見なんだか東京と変わらないが、やっぱり登山客にとっては重要な中継駅で、3連休前という事もあってこの日この街でコンビニ前にたむろしてるのはヤンキーではなかった。 食べ足りない晩飯と電車内の酒を買い足して駅に戻る。ホームで菅原さんと合流する。 23:57信濃大町着。3,4パーティがそこかしこでゴロ寝している。我々も寝酒をあおって駅の軒下で就寝。 ▲ステビ 9/15(土)信濃大町〜高瀬ダム〜テン場〜大凹角ルート 早朝5:00起床。七倉までのタクシーを相乗りしてくれる人を捕まえる為、ムーンライト信州の到着を待つ。ここで読売新道パーティと会うが、ちょうど4人という事でタクシーはご一緒できなかった。駅からは続々と登山客が出てくるので、すぐに2人を捕まえタクシーで七倉へ。6:00七倉に到着し6:30のゲート開放を待つ。大抵の場合、ここで高瀬ダムまで入れるタクシーに乗り換えるらしいのだが、今回乗ってきたタクシーがたまたまその車だったらようで、車やメンバーチェンジなく高瀬ダムまで行く事ができた。信濃大町から七倉まで凡そ6000円、七倉から高瀬ダムまで2100円。1人2000円だった。唐幕の我々はダム下で途中下車。 ▲七倉の駐車場は満車。それでも足りなくて路肩にも止まっていた。 6:50唐沢に入る。猪股は今年1月の7時間ラッセルのつらい思い出しかないので、「せいぜい2時間」と聞いた時はまさかまさかと疑ったが、ほんとに2時間弱だった。途中、金時の滝を巻くためのガレルンゼはボロボロで、傾斜も強く上部はフィックスロープで腕力で体を持ち上げた。ここで猪股、ガバホールドに落とされた猿のウンコをガバッと握りこんでしまい、指の間から爪の間までクソまみれになってしまう。強烈な匂いだ。滝を巻き終えて沢床に降り、速攻で洗ったが強烈な匂いはこの日中ずっと残った。 ▲高瀬ダム下 ▲金時の滝。左のガレルンゼをガレガレ登る。サルのウンコに注意。 ▲上部はフィックスで無理やり登る。 8:50。B沢の1本前、右岸の沢の出合、テン場に到着 テント設営の後、登攀具持って大凹角へ出発する。 ▲テンバ 道中、今度は菅原さんが猿のウンコを掴んで悲鳴をあげる。太郎ほくそ笑む。ワシの滝は右の踏み跡から落ち口へ。落ち口はガレているが慎重に行けば特に問題なし。右稜のコルへ向けて薮の中のルンゼっぽい踏み跡を登る。大町の宿を右手にスルーして詰めていく。10:30右稜のコル着。ストックその他不要な装備をデポし登攀準備を整え出発。菅原さんがクライミングシューズを持たないので不思議に思ったら、兼用靴との事(!)。大凹角ごとき兼用靴で十分ってですか?!。 ▲ワシの滝 ▲B沢を背に、右稜のコルを目指してヤブに突っ込む さて取付きまでは右稜のコルから真左に伸びる踏み跡を辿って草付の斜面をトラバース。露岩が現れ頭上にコーナーを見る辺りで確保支点を探すが、コケや草に隠れて見つけられず、結局見つけた1本のハーケンでスタート。 ▲右稜のコルから左の踏み跡をトラバース ▲1P目ビレイ点にて、冬の敗退スクリュー発見 ■1P目 猪股 草付を2m程上がった辺りで確保地点を見つける。上部コーナーを目指してスラブを真っすぐに登る。コーナー基部から1m程フリーで上がり右側のフェースのリングボルトから人工スタート。コーナーの頭を目指してA1。コーナーの頭にはピンが纏まって打たれているが、終了点はここではない。1P目の終了点はそこから右上したテラス。4m程右上した辺りでハーケンが3枚打たれており、ここで切る。(実はこれも本来の終了点ではなかった。といっても2、3m右上したところなのでどっちでもよさそう) ▲コーナーの頭の下降点。赤スリングが残置されていた。 ▲コーナーの頭から4mくらい右上したビレイ点 ▲コーナーの頭に立つ。 ■2P目 菅原 そのままスラブを20mくらい右上を続け、今度は左上する草付きバンドをトラバース。洞窟テラスで切る。トラバース中はプロテクションが乏しい。 ▲草付を右上 ▲1P目終了点から2mほど右上して本来の1P目終了点。 ▲今度はバンドに沿って左上。大きくコの字を書くようなピッチだ。 ■3P目 猪股 コーナー左側壁を2mくらいA1し、右のフェースに乗り移る。この時のスタンスが僅かなカチでヌルヌル。何とか耐えて移ったらボルト連打。フェースの人工からスラブに切り替わるとフリー。スラブはフリクションも効いて、それなりにホールドもスタンスもあるのだが7mくらいランナウト。冬に時間切れ敗退したボサテラス下の下降点からまた人工となるが、真上に続くと思われたボルトがフッと無くなる。後1本あればボサテラスの灌木に手が届くのに。周りは乾いたコケがびっしりついていて、アブミ最上段に乗ってそれらをひたすら剥がしたが見つからず、やや広めの土スタンスにハイステップで乗り込んで更に上をホジホジしてみたがやっぱり無い。エイヤーとデッドすれば届かない距離ではないがそんなバカなと冷静になって見渡してみると、左から回り込むようにボサテラスに続く草付きを見つけ、そちらに転進。一歩とはいえハイステップなんかで上がってしまったもんだから戻るのも苦労した。草付きを上がってボサテラス。灌木でピッチを切る。トップだけで1時間を費やしてしまった。(菅原さん曰く、冬はダブルアックスの効きがいいので草付きを辿る事があるが、ボサテラスにまっすぐ突き上げるようにボルトが続いてたはず。とのこと。コケ剥がしが甘かったか抜けたか。) ▲コーナーから右フェースに移り人工。 ▲ボサテラスの左端に回りこむ様に走る草付 ■4P目 菅原(短いためトポ上の4P目、5P目をつなげる) 左上して凹角へ。凹角はクラックが豊富で残置のプロテクションの他、カムを効かせていたこの辺りから雨粒が顔にあたってきた。 ▲左の凹角目指してコケスラブをトラバース。兼用靴では細かいスタンスに立てず苦労していた。 ▲凹角突入前のトポ上の4P目終了点。えらい短けぇピッチw ■5P目 猪股 プロテクションはほとんどないが、写真を撮り忘れるほど、本当に簡単な露岩スラブ(これぞⅢ級)を、樹林帯目指してグングン進む。樹林に突入したら灌木で切る。 ▲終了点の潅木からスラブを見下ろす ▲ビレイ点 ■6P目 菅原 どうも5P目で猪股はトポの「左上」を意識し過ぎて左に行き過ぎたようで、大凹角基部への方向修正のため右トラバース気味に樹林帯を 藪漕ぎ。同じように間違えたパーティもいたのか、踏み跡やちょっと嫌なトラバース地点には残置スリング等が残されていた。 ▲樹林帯に突入。右にトラバース気味にヤブ漕ぎ。 ■7P目 猪股(短いためトポ上の8P目、9P目をつなげる) 「パラパラ」から「サー」位の雨が降ってきたが、濡れた岩に慣れてきてあんまり気にならなくなってきた。 大凹角を見上げ、ビショビショのルンゼ状を直上。大凹角に入ると雨は全くあたらない。右壁にボルトが連打されておりA1。それを上がるとトポ上8P目終了点だ。右には大凹角から出るように右稜山嶺ルートが続いている。大凹角は左上。最後1.5m位の岩の乗っ越しがマントル気味でボルダーチックなのだが、手は浮いてんじゃないかと思うようなガバホールド。ランナーは3m下のハーケン。足を上げる前にプロテクションが欲しくて、ナッツを試してみようとゴニョゴニョしたが結局決まらず、あげくに一個落とした。消沈して仕方なくそのままマントル返したら意外と大丈夫だった。 上がってきた菅原さんに嘆いたら「落ちてたけどもしかしてコレ?」とナッツを差し出してくれた。ハワァー! ▲終了点から見下ろす。写真中央のチムニーが右稜山嶺ルート。 ■(最終ピッチ)8P目 菅原 右壁に続くボルトをA1。垂壁から若干薄被っているようで立ち込むのがつらい。上部の屋根上の岩を右から回り込むように超えると巨岩が縦に積み重なったような凹角になる。ここだったらナッツ効きそうだなぁと思いつつのぼる。終了点は右稜の頭の灌木。 17:00登攀終了。 ▲出だしのA1。短いが薄被りで疲れた。 ▲右稜の頭に着。 登攀時間6時間。こんなに掛かってしまったのは、まったく猪股のリードピッチで時間かけまくった為である。(もっと手際よくやれば1時間は巻けたはず、とのこと)
とはいえ、今回つるべで登れた事で一定の自信が付いた気がする(気、がする)。6P目のヤブ漕ぎなんかは迷うこともあるかもしれないが、オールリードでも、次は誰かを引っ張りあげられると思う(!) 辺りは薄暗くなっている。ヘッデンを装着し下降を開始する。右稜の頭からシャクナゲの中の踏み跡を辿り懸垂ポイント。この後の下降は途中でロープがスタックしかけたり絡まったりして時間を取られて3本目の懸垂時点でもう真っ暗。菅原さんの記憶のまま懸垂ポイントに導かれていたので全然覚えてない。(むしろこっそりビバーク地を探してた。) 19:30 右稜のコル着。20:40テン場着。この日の仕事は終わった!沢で冷やしたビールで乾杯! 駅からのアプローチに加え、登攀終了も遅くなって疲れちゃったから、明日は6:00に起きて畠山は半分くらいで帰って焚き火しようや。ということで明日の登攀に緊張しつつ、ぐっすりねる。 ▲一発目の下降 ▲真っ暗闇でも的確な下降点ファインディング。こればかりは今回見につけられなかった。 9/16(日)畠山ルート 6:00起床、7:00出発 B沢右岸の神奈川の宿の向かいが畠山ルートの取付。もし神奈川の宿に泊まったら翌日10mでクライムオン。なんてステキなルートか。3P目のチムニーも目印になる。 ▲B沢に入る。 ▲B沢右岸の神奈川の宿 ▲その対岸の畠山ルート取り付き。写真右端の崩壊部分からスタート ■1P目 菅原 1P目は出だしが崩落しており、その箇所を左から巻くようにルートを取る。出だしが崩落し沢床からスタートしたせいか、ロープいっぱいになってもなお引っ張られる。崩落した1mくらい岩棚を上がってやっと解除コール。フォローで登ってみると15mくらいで正規ルートにもどったようでピンが出始めるが露岩帯は全然Ⅲ級じゃない。ネットの記録によってはノーロープという記述もあり、実際菅原さんも過去にそんなこと言ってた記憶があるらしい。登られていくにつれて土や草付がしだいに剥がされていったのかも、ということで今はぜんっぜんⅢ級じゃないので注意。 本来のビレイ点が草に隠れて見つかんなかったということで、少し右よりの下降点?ぽいところで切っていた。 ▲崩壊部分を左から迂回して正規ルートに戻る。 ▲今回の1P目終了点。 ■2P目 猪股 本来の1P目終了点を探しつつ5mくらい真左にトラバースしたらそれ(1P目終了点)を見つけた。ここでランナーを取ってしまうと著しくロープの流れが悪くなるのでスルー。頭上のハングを目指して泥の草付を直上。かれこれ15m以上ランナーを取ってなかったのでハング下の太い木への一歩が踏み出せず、ハングの側壁にカムやナッツをゴニョゴニョ。でもお決まりのように結局決まらず、リスにロストアローを打ち込んで超える。(自分の中でロストアロー株がぐん上がる)ハング下の木を乗り越し、右のフェース目指してトラバース。このあたりで一方のロープが重くなりだす。フェースに出るとボルトが連打されておりA1。フェースからスラブに移り、フリーで右上。ロープ激重!ロープを肩に掛けて引っ張っては前に進み、こんな状況では一手もんの岩は絶対超えられない。なんとかテラスの潅木にたどり着きピッチを切る。3m先に2点ボルトの終了点が届くが、もうどうやったってロープが動かない。 (このころ、下のほうで声が聞こえ、B沢出合にテントが張られたのが見えた。3連休の唐幕は我々含め2パーティだった) ■3P目 菅原 ビレイ点の潅木を足場に草付バンドを左にトラバースし、チムニー左側壁のボルトラダーを目指す。A2だけあって2010年にはピン抜けの記録もあり、それなりに時間掛かるのかしらと思ったらあっさり突破してしまわれた。フォローで上がってみれば、距離はさほど気にならないものの、とてもトップなんかしたくないほどのねじ切れそうなハーケンや薄くなったリングボルト。次回来て自分がトップをやるときなんかはチョンボでも何でも使ってコイツ等は迂回したい・・・。 ▲この一段上までがフリー ▲人工突入(ここらあたりのハーケンがヤヴァイ) ▲ここまでくると2012年現在でまぁまぁ安心できるリングボルト ▲ヤヴァイゾーンを見上げる。(所詮フォロー) ▲フォローでまぁまぁ安心ゾーン ▲まぁまぁ安心ゾーンからハングを見上げる。 ▲3P目終了点 ■4P目 猪股 唯一のⅤ級ピッチ。ドロドロ、ヌメヌメ、ビショビショの草付ルンゼ。スタンスを探したが中々離陸できずパンプ。結局狭いルンゼの泥の中にスタンスがあったり、下からアドバイスもらい何とか離陸。その後も傾斜の強い草付きが続くが、出だしほど困ることはなかった(出だし核心?!)。プロテクションもドロに隠れてたりしてホジホジして見つける。スタートから15mくらいロープを伸ばしてビショルンゼから右側壁のスラブ状に移り、頭上を見上げると、正面にまたボーボーの草付きが現れる。草を掻き分けると、直上する様に土の段差ができており、何の疑いもなく取り付いてしまう。傾斜が強く、細い潅木の根元をホールドに木登り状態で体を上げる。草を掻き分けると、前方は草付が消え、とても登れそうにない露岩が続いていた。これはおかしいと右の草を掻き分けて様子を見ると、樹林帯に向かって右上するバンドが、下のスラブ状から伸びていた。これは間違えた! スラブ状までクライムダウン。草が茂っていて足元が見えず、ホールドは先ほどの細い潅木の根。足を探りつつ体重を掛けると根っこがブチブチ鳴った。幸いそれが切れる前に足が付き、スラブ状のバンドを右に5mほどトラバースして潅木に沿って木登り直上。樹林帯をさらに右上すると終了点を見つけることができた。 ▲クライミング的な核心を越えて見下ろす。 ▲4P目終了点 ■5P目 菅原 凹角を登っていく。ここは辺りが開けてるので岩も乾いていて、登ってて一番気持ちのいいピッチだった。コーナーにはカムが決められそうな穴が結構あったが菅原さんは、んなもんは無視してⅣ級ランナウト。うひー。13:15フォロー着。 終了点も明確でルーファイで悩むことはなさそう。 時間も時間なので、今回はここで終了。 次回のために情報を残しておくと、5P目終了点からまっすぐ頭上の樹林のテラスに直上する様にボルトが2本連続して打たれているがこれはフェイク。その先には何もない。正解は左の草付を辿ること。 ▲出だし。そのまま凹角に消えてゆく。 ▲フォロー中。ランナーが乏しい ▲見下ろす。このコーナーにカムが効きそうな穴が結構あり。 ▲凹角からスラブへ。(5P目は正面の潅木を目指してはダメ。左の草付バンドをたどるべし。) ▲4P目終了点 懸垂は往路下降。14:50B沢着 さぁ酒だビールだ焚き火だ!一目散にテン場にもどる。道中、菅原さんがやられた猿のウンコが行きより砕けていた。たぶんB沢テントのパーティがやられたのだろう。二人でほくそ笑む。 ▲行きより崩壊したサルのウン● 15:40テン場着。まず乾杯! 薪にはまったく困らない。大して労せず自分の胴くらいある流木4本も確保。探せばいくらでも出てくる。昨日雨は降ったが着火は楽だった。夕食は大量のソーメン。腹に入りきらないくらい詰め込む。日が落ちると気温はさがったが、その頃には焚き火は安定して近づくことができないくらいになっていた。それでもジャンジャン燃やして大はしゃぎ。酒もどんどん入る。数本のビールを飲み干すと、瞬く間に500mlのブランデーと500mlの芋焼酎も空になる。火は見てて飽きないし気持ちが落ち着く。 ベロベロになって22:00テントに入った。 ▲薪はいくらでもある。 ▲ソーメン ▲ひたすら燃やし、飲む 9/17(月)下山 7:30までぐっすり寝たが普通に二日酔い。頭痛の中9:00出発。金時の滝は懸垂1回。11:20高瀬ダム着。 菅原さんはダム横の路肩のヤブにデポしたビール。猪股はいまいち前日の酒が残っていたので水で乾杯。タクシーを待つ。 ▲ダム下に帰り立つ ダム上に行くタクシーは沢山いるのだが一向に戻ってこないので、やってきたタクシーにダム下まで呼んでもらうようお願いしたら、その車は客待ち目的だったようで、そのまま信濃大町まで乗せてくれた。14:00頃か、信濃大町着。七倉荘で汗を流そうとしたら大量の登山客が入ってきて、とてもあの風呂には入りきらないだろうと途方にくれていると、タクシーの運チャンが七倉荘横の「竹乃家」でも風呂入れるよと教えてくれる。いい風呂だった。 信濃大町から松本。松本からあずさ号で帰郷。 |
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