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幽ノ沢 ノコ沢大氷柱

2012/03/21 8:23 に Taro Inomata が投稿   [ 2012/04/09 9:16 に更新しました ]
初の谷川冬期登攀、見事に撤退、納得の撤退
幽ノ沢 ノコ沢大氷柱


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て良かった。幽ノ沢出合から胸を着くような急勾配のラッセルで辿り着いたノコ沢氷柱の取付。青空の下、稜線直下にドンと構える大氷柱は、その姿を眺めるだけでも心を満す存在感でそこにあった。
日 程:2012年3月10~11日(前夜発、1泊2日)
天 候:曇り(小雪)、晴れ
参加者:スガワラ(L)、イノマタ、ナカジマ(記)
ルート:登山指導センター~幽ノ沢出合~展望台~ノコ沢氷柱基部~登山指導センター

3月10日(土) 13:00阿佐ヶ谷発―18:00谷川岳登山指導センター泊
3月11日(日) 2:00起床、3:00出発―4:40幽ノ沢出合―7:30ノコ沢取付―11:00谷川岳登山指導センター


 2週間前にも計画していた谷川・幽ノ沢ノコ沢の氷柱。毎日天候を確認し、その度に「今週もダメかな」と思っていた。都内は金曜日まで雨が降っていたし、となれば谷川でも相応の降雪があったのでは……。雪崩が不安ならば、ゲレンデのアイスクライミングに転戦するのはたやすいし楽しい。だが、やはり実際“現場”に行かないことには見えないことも多いはず。前日まで悩みながらもまずは行ってみようということで、スガワラ・リーダー、イノマタ隊員と共に、初の谷川岳、冬季登攀にトライした。

 土曜日午後の関越道は渋滞もなく、高速を降りてからも完全に除雪された道のりで快適に登山指導センターへ。トレースを確認すべく一ノ倉に向かうが、トレースばっちりということで途中で引き返す。少なくとも新雪が積もった気配ではない。水上の食堂で早めの夕食を済ませて再び登山指導センターに戻り、早々に就寝。他パーティーが来ることもなく快適な一夜を過ごした。
 翌2時起床、手早く準備を済ませて3時発。同じ時刻に2パーティーが登山届けを出しに登山指導センターに立ち寄っていく。1パーティーは昨年末の黄蓮谷でも一緒だった龍鳳登高会K氏のメンバーで、彼らは一ノ倉を目指すようだ

Exif_JPEG_PICTURE 一ノ倉出合まではしっかりとついていたトレースも、そこから幽ノ沢まではトレースなし。記録では1週間前に2パーティー入っていたようだが、この1週間で消えてしまったようだ。ところどころデブリを越えながら幽ノ沢出合へ。展望台までは沢沿いを進み、右手の急斜面を登って展望台で小休止。視界が開けたこともあり薄明るくなった展望台から、幽ノ沢の全体が伺いしれる。
 展望台からはノコ沢とその対岸の石楠花尾根を左に見つつ、なだらかな尾根を忠実に辿る。湿雪をたっぷり纏った雪山はずっしりとした重量感で静かな迫力を伝えてくる。先行するふたりのトレースを踏みしめると時折り、そこからさらに数センチ、グズリとスノーシューが沈み込む感じがいやらしい。表面から25cmほど掘ってみるとザラメ状の弱層だ。左側は雪庇になっているので、木々の間を縫いながらの直登を続け、樹林帯を抜け少し上がったところ、デブリの末端にスノーシューをデポした。下降ルートのβルンゼから再びここに戻ってくる予定なのだ。夜は完全に明け青空すらのぞく。そして目の前には堅炭尾根の稜線と、めざすノコ沢の氷柱がドーンと、ホントにドーンと真正面に広がっている。見事な青空のスカイラインの真下にそびえる120メートルもの大氷柱。この景色を見ただけで納得、満足してしまう、そんな存在感に溢れていた。土合からわずか3~4時間のアプローチでこんな景色を味わえるとは。標高は1200メートルに過ぎないが、大袈裟に言えば、その景色が与える印象はまさに天空の大氷柱だった。

Exif_JPEG_PICTURE 間近に見える氷柱だが、思いのほか急登が続いた。最初のうちは雪を踏みしめ踏みしめ登ることができたが、次第に粉雪状になりわずかな距離だがラッセルに苦労させられる。さらに氷柱の手前にはシュルントが口を開けており通過に少々緊張させられた。思った以上に時間が掛かり、7時30分、ようやく氷柱基部に辿り着く。天気予報では低気圧と寒気で昼頃から悪天候になるとのことだったが、予想に反して青空が広がり雪の斜面を遠慮なく暖める。気温も高い。「なんだかイヤだなぁ」と思いつつ、「雪は断熱性が高いから積雪の中まで暖まるには時間が掛かるだろう」などと楽観的に考える。だが、いずれにしても適切な判断を下せるような経験値はなく、漠然と不安を抱えながらの登攀開始となった。

「リード、させてくださいっ!」という威勢のいいアピールの後、イノマタクンが1ピッチ目をリードする。相沢や大谷不動でトレーニングを重ねてきただけあって、危なげなくロープを伸ばしていく。が、それまでおとなしかった氷柱上から、サラサラ、サラサラとスノーシャワーが落ち始めた。2回目はザサーッというぐらいに強くなり、3回目はさらに強く……と、間髪入れずにスガワラさんから「撤退!」の声が。迷いなく、迅速な判断だ。実はこのとき、上部で直撃を受けたイノマタクンは、“ドササーッ”という感じで雪を浴び、必死でアックスにしがみついていたとのこと。相応の重量感だったらしく、「あの時は景色がモノクロになった」という。

Exif_JPEG_PICTURE そこからの撤退は早かった。惜しみなくアイススクリューを残置してイノマタクンをロワーダウン、急雪壁をダブルアックスで滑り落ちるようにデポ地をめざす。途中のシュルント通過は登りよりもさらに緊張させられ、デポ地まで戻ってようやく人心地がついた。余談だが、必死にダブルアックスでクライムダウンしている斜面を、スガワラさんは普通に歩いて下ってきた。シュルントは「面倒だから飛び越えた」と。経験の差か、技術の差か、はたまた度胸の差か。要は万が一の滑落にも止まれるという自信があるかないかの違いだろうが……来シーズンには自分も歩いて下れるようになりたいもんだ。それにしても、下るときに見たβルンゼの雪崩はなかなかの迫力だった。







 これまで何回か冬山のバリエーションを登っているが、今回は安全に抜けられる時間帯を狙ってワンプッシュするというアルパインスタイルを、少しだけ齧ることができたと思う。たしかに予報よりも気温は高くなったが、それでも取付への到着がもう1時間早ければスノーシャワーが始まる前に核心の氷を抜けられた可能性は高いし、だからこそ改めてスピードの重要性を実感した。また、荷物を軽量化していたからこそ、ある程度のラッセルもペースダウンせずに進むことができたと思う。これまでは「迷ったら背負え!」だったが、これからはスピードも考え、より装備を厳選することも覚えていかなければ。
 撤退は残念だったが、いい経験ができた。自分だけでは入ることができないエリアに同行させてもらい、これまで見たことのない景色に久々に雪山を堪能した。正直、「こんなところに俺は登って来たんだ」とプチ感動した。山から帰って数日経ったが、いまだに青い空の下に広がるノコ沢の景色が頭から離れない。次に来るときまた今回のような青空を見られるかどうかはわからない。成功を考えればむしろその逆だろうが、本当にまたトライしたい。とてもいい経験をさせてもらったと、リーダーのスガワラさん、計画をまとめてくれたイノマタクンに感謝している(ホントに^^;)。

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