ボルト安全講習
日時:2026年5月30日(土)9:00~12:00
場所:小川山
講師:JFA認定リボルト指導員 黒田 誠 氏
参加者:SA、他
講習内容
1、アンカーの変遷、種類、特徴、規格についての講義
2、岩場に設置されているアンカーの種類および状態の確認
1.講義概要
(1)フリークライミングとボルト
フリークライミングは人工登攀(エイド)に頼らず登るクライミングである。
初期のルート開拓はグランドアップ方式が主流であり、登りながら支点を設置していたため、8mm径程度の短く細いボルトが使用されていた。その後、懸垂下降によるルート開拓が行われるようになり、電動ドリルを用いて10mm径以上の長く強固なボルトを設置することが可能となった。
1980年代に開拓されたルートのボルトは老朽化が進んでおり、2000年代までに設置されたボルトについても現在の基準では十分な信頼性がないものが存在する。
※ねじ部が8mm径の支点はフリークライミングにおける墜落荷重に対して十分な強度を持たない場合がある。
(2)ボルトの種類と変遷
① エイドクライミング用
・リングボルト、・RCCボルト、・リベット

エイド用アンカー
特徴
・短く細いボルトが多い
・深く打ち込まれていると支点として十分機能しない場合がある
・使用前に動きがないか確認する
・リングボルトはカラビナを掛けた後に回転させて状態を確認する
※リングボルトは1952年のドリュ西壁登攀などで使用された。
② 建築資材・ハンドメイド支点(UIAA規格不適合)・
・アイボルト(本来は牽引用であり、クライミング時の墜落荷重を想定して設計されていない。)
・オールアンカー(穿孔後、芯棒を打ち込んで固定する方式。見た目は銀色の半球状)
*ねじが外れると強度を失う

オールアンカー、カットアンカー
カットアンカー
本体を打ち込み、内部のコーンを押し広げて固定する方式。
・施工が難しい、ボルト止めされたものは要注意、10mmアンカーに8mmコーンが使用されている例があり、肉厚不足による強度低下の可能性がある。
異種金属腐食
ペツルのケービング用製品を流用した事例では、アルミ製ハンガーとステンレス製アンカーの組み合わせにより腐食が発生している。
小川山の5.9~5.10前半クラスのルートには、ペツルですらないペツルもどきのカットアンカーを用いた支点が残存している。
手製ハンガー
・TRPハンガー(城山・湯河原)
・平山ハンガー
・つなハンガー
また、終了点には強度不明のカラビナが使用されている場合もあるため注意が必要である。
強度の目安
【材質】
ステンレス、チタン > アルミ、鉄の順
【アンカー】
ステンレス製オールアンカー>カットアンカー(施行が難しい)>鉄製オールアンカー
③ クライミング専用品(UIAA123規格)
UIAA123では、応力腐食割れを考慮した試験が行われている。
グージョンボルト(拡張ボルト)
穿孔内でボルトを拡張させて固定する方式。
・柔らかい岩や空洞のある岩では十分に効かない場合がある
・ナットの緩みは再締付けにより回復可能な場合が多い

グージョンボルト
ケミカルボルト
接着剤でアンカーを固定する方式。
・腐食に強い
・柔らかい岩や海岸部にも適する
・接着剤の施工不良や劣化がなければ高い信頼性を持つ
*海岸部では鉄製アンカーの腐食が問題となるため、チタン製アンカーが使用されることもある。

ケミカルアンカー

チタンアンカー
正規ハンガー
CT、マムート、ロックテリクス、ペツル、FIXE、コング、メトリウス
*使用時は刻印の有無を確認することが重要である。

正規アンカー
現在の材質
・ステンレス316、 チタン、 チタンは特に耐腐食性に優れ、海岸エリアで利用される。
(3)個人でできる対策
- 1ピン目付近、下部での墜落を極力避ける
- 墜落する際は少しでもクライムダウンする
- ナット増し締め用としてモンキーレンチ(13~19mm程度)を携行する ハンガーナットは45~90度程度の増し締めが目安
- 終了点のカラビナはクリップ後に回転させて状態を確認する
- 不明な終了点よりも、状況によっては岩角とスリングによる支点の方が信頼できる場合がある
- 終了点ボルトが1本のみの場合は、一段下の支点に捨てビナを設置してバックアップを取る例もある
- ハンガーやマイロン等の刻印を確認する
2.支点の観察
岩場において双眼鏡を用いて支点を観察した。 以下の実例を確認した。
- 異種金属腐食が生じたカットアンカー
- オールアンカー
- 施工不良のカットアンカー
- ケミカルアンカー
- グージョンボルトアンカー
- カットアンカーで構成された終了点
講義で学んだ内容を実際の岩場で確認することができ、支点の見分け方や危険箇所の判断について理解を深めることができた。
3.所感
これまで自分は、リボルトされたルートを選んでもらい岩場へ連れて行ってもらうことが多く、支点の安全性については同行者の判断に依存していた面があった。今回の講習を通じて、支点の種類や状態について十分な知識を持たずに登っていたことを改めて認識した。また、ルート情報やリボルト履歴を確認するだけでなく、現地で双眼鏡等を用いて支点を観察することの重要性を学んだ。今後は支点の状態に余裕を持って対応できるよう、無理のないグレード選択と余力を残した登攀を心掛けたい。今後の安全なクライミングに大いに役立つ有意義な講習であった。