一ノ倉沢3ルンゼ

昨年3月の一ノ倉沢3ルンゼ夜間登攀の記録です。狙い澄まして、チャンスを掴んで完登できました。
この記録は谷川岳の素晴らしさを教えてくれた故・菅原伸さんに捧げます。

一ノ倉沢3ルンゼ (HG、K澤さん)

・2/18 sun
一ノ倉沢3ルンゼ登攀予定、雪の状態によって、滝沢第三スラブ、二ノ沢本谷、同左俣 に転進の可能性あり。

前日2315 指導センター発(入山) – 0030一ノ倉沢出合 – 0230 滝沢出合直ぐ上の大シュルンド地帯 – 0315 3ルンゼ取付 – 0415F2下 –
0545 F3基部 – 0650 F3上 – 0820 上部城塞壁基部左端(一ノ倉沢中央奥壁の頭からのピナクル尾根との合流点付近)- 0850休憩完了 - 1045 国境稜線 –
1140谷川岳片ノ小屋 - 1350 西黒尾根経由で指導センター下山

一ノ倉クライマーなら誰もが夢見る出合いから国境稜線に最短距離でど真ん中をダイレクトに突き上げる漢気あるライン。
一ノ倉では滝沢と並んで雪崩の巣と知られ、60-70年代は度々事故死も起こっている際どいラインだが、滝沢右稜、滝沢リッジと並んで自分の中では谷川の懐に抱かれる為に、行くべきルートと認識されている。
寡雪・適度な暖冬とコンディションが揃い、パートナーとして往年の谷川クライマー 群馬のK澤さんを得て、10年近く経ってようやくチャンスが回ってきた。
滝沢リッジは2023年にK澤さん、雪稜会の同い年同じ月生まれのクライマー 山ちゃんと完登しており、雪が少ない為滝沢右稜は候補にあがらず、上部城塞の雪が安定し、国境稜線のブロックが少ないと見込んで3ルンぜに狙いを定めた。
2週間前から降雪状況をwatchしていたが、この年は本当に積雪が少なく積もっても稜線で30cmくらいの日が週に2-3ある程度。
おまけに晴れの日も多く、気温も高めなので、この上ない安定した雪質の登攀コンディションが見込まれる。
一ノ倉特有の3日前くらいから恐ろしくて寝つきが悪くなる感覚も嬉しい思いすらする。
とはいえ稜線ブロック崩壊、上部城塞の雪田からの湿雪雪崩が1発でもきたらお陀仏であることには変わりない。

・2024/02/17 sat
天気は土曜昼から日曜夕方まで晴れ予報。ハイカーの直近の記録や写真もネットにあがっていない為、土曜はBCスキーで早朝に国境稜線まで上がり、マチガ沢滑走することで、最上部から最下部までの雪質チェックをし、滑走を終えたらそのまま一ノ倉の二ノ沢出会いあたりまでシール上り、3ルンぜルートや周辺岩壁の雪の付き方を偵察する作戦とした。日の出と同時くらいのタイミングで天神平まで上がった。
曇りなれど気温が高めで汗をかきすぎないように衣類調節に気を使った。BCスキーのハイクアップは登攀以上に衣類調節が難しい。

どうやら熊穴避難小屋から上は濃いガスにつつまれているようだ。同小屋まで行って15分くらいガス切れ待ちをしてみたが、全然切れる気配はないので、マチガ沢滑走は諦めて熊穴沢~西黒沢滑走とする。雪の状態は予想通りで、ルンぜ登攀するのに不安はないコンディションだった。
国道まで滑走し、板を脱いで(ベースプラザ~土合駅のアスファルトは出ている)白毛門登山口上の湯檜曾川右岸林道からハイクアップ開始。
雪が少なすぎて側流徒渉、ジグザグ藪漕と忙しい。

一ノ倉出合(湯檜曽川とのほんとの出合)から進路を西にとり高度を上げていく。出合(林道の)で視界が開ける。
びっくりするくらい雪が少ない!滝沢デルタは一切見当たらず、滝沢大滝が幅広の大氷壁となっている様子が出合からはっきりと見えた。
ロープスケールで60mはゆうに越えているだろう。周辺岩壁の雪もすくなくて壁が黒々しておりなかなかの威圧感だ。
肝心の3ルンゼに目を見やると、雪が少ないが故にF2は長い幅広の氷瀑、F3は長い氷柱になっている。両方とも40m近くは露出しているのではないか。
F1は見えないが恐らく全く埋まってなくて、アイスクライムすることになりそうだ。アイスパートで時間がかかりそうなのは明白だが、雪崩の心配が少ないので気分は軽くなった。
林道をボブスレーでかっ飛ばし、谷川岳新ビジターセンターPにて日向で気持ちよく宴会をしていたら1700で駐車場を占めるというので追い出されるアクシデントもあったが、1730には就寝できた。

・2024/02/18 sun
2230起床。まだ土曜日か。冬の一ノ倉でこんなに早く起床するのは初めてだ。理由は当然夜間登攀をする為。
致死レベルのでかい一発はないだろうが、日の出と同時に大なり小なりのチリ雪崩が頻発して登攀スピードが鈍るの嫌って、日の出前までに少なくとも滝沢右稜と3ルンゼのジャンクション(コル)までは抜けている作戦だ。そこまで上がれば一先ずリスク度合いは大分減る。

k澤さんは呑み足りなかったのか、殆ど眠れなかったとのこと。ビールをしこたまあおった当方は快眠できたものの夜中に2回ほどトイレしに起きた。
そんなわけで、足取り重いアラフォー山屋はよたよたと一ノ倉出合に向かう。月齢は悪くないが、上部がガスっているようでヘッデン頼みの暗闇行軍で、滝沢大滝基部へ到着。メッチャバーチカルの氷壁だ。こんな時に3スラ上ったら大変だろうなあ。

ここからは底が見えない巨大シュルンドを巻いたり、クライムダウンしたりと忙しい。時々hiden クラックに足を取られそうになり恐ろしい。
4ルンゼのスラブまで見えている個所は30mくらいの破断面がそのままずれ落ちれおり、世紀末の様相。
暗闇のシュルンド迷路をウロウロしながらもなんとか2ルンゼ基部あたりまで来たかなーというあたりで、3ルンゼと思われる雪壁にアンザイレンし取り付く。
70-80mコンテで伸ばすと見覚えのある穴(CS)が。これ2ルンゼやーん ということで、気を取り直しクライムダウンして今度こそ3ルンゼへ。
2人とも無雪期に2ルンゼ3ルンゼとも登っており、なんとなく地形を把握していたので、直ぐに間違いに気づけたのは不幸中の幸い。
F1(HG)はやはり埋まっておらず、乗越が小ハングのスカ氷となっておりスクリュー全7本中3本ほど使う羽目に。
F2(Kさん)もスカ氷で足元が怖いが傾斜は80度くらいなのでそこまで際どくはない。
乗越のスカスカもなか雪は沼田大社長の軟雪用アックスアタッチメントならばそこそこ効いてくれて安心。
F3(HG),基部について見上げてビックリ。長い氷柱。しかもカンテ状でどうみても登りづらそう。
沼田アタッチメントの欠点で、スカ氷には羽が邪魔でピックが根本まで入らない問題があるので、Kさんのノーマルクオークとアックス交換してもらい登り始める。

氷質は以外としっかりしていたので、スクリューは効いており安心。
クオークで氷柱はなかなかつらく、スクリューを打つときは無理せずアックステンションでサクッとしっかり利かす。
シェイクしてノーテンでもかかる時間は対して変わらないので、無駄なこだわりは身を縮めるだけたったー♪(by長渕剛)。

さあF3滝上に乗越したが、氷もリスも全く見当たらず、おまけに予定より時間がおしていた(取り付き間違えで?)らしく、早くも空が白んできてしまった。
この上には雪崩れそうなロング雪壁がまっているというのに。
苦し紛れにシュルンドにスノーバー2本突っ込んでビレー。多分気休め。ビレーオーン、支点プアなんでー のコールをして登ってきてもらう。
割と苦労していたようなので訊いてみたら、やっぱりピックが先っちょしか決まらず、支点プアコールも出ていた為、かなり慎重にきたとのこと。
そりゃそうですね。

ここからはコンテでスピードを上げる。チリ雪崩フィーバーだが、傾斜はねてきたので顔面直撃はま逃れており、ありがたい。途中右側壁(上部城塞壁の基部)にはでかい氷柱が繋がっている。
8時過ぎ、すっかり明るくなってしまったが、ジャンクションコルに到着。安堵、そしてガスが晴れ眼下には雲海とガスに吸い込まれる滝沢右稜のナイフリッジが神々しい。

指導センターをスタートしてからようやく最初の休憩をここでとって、一ノ倉のど真ん中二人締めの喜びを噛みしめる。
すっかりblue and whiteなので、K澤さんが最後の雪壁にそそくさと突っ込む。最初コンテでスタートしたものの、結構悪そうで、一部スタカットに切り替える場面も。
フォーローするとスカスカ空中ラッセルで結構悪い。恐らく無雪期はバーチカル笹壁になっているパートだろう。このままコンテでラストスパート。

1045国境稜線。 上越国境の白い峰々と群馬側の雲海が出迎えてくれた。こんなに清々しい登攀はいつぶりだろう。夢から覚めてしまうのがとても名残惜しいが、すでにハイカーで賑わうオキの耳へ向かった。

3ルンゼF3基部

3ルンゼF3基部

3ルンゼ取りつきかと思ったら2ルンゼ取りつきだった

3ルンゼ取りつきかと思ったら2ルンゼ取りつきだった

F3上の急雪壁入口で夜が明ける

F3上の急雪壁を急いて左上

ドームとマッターホルン

国境稜線へ

最期の悪い草付き 雪壁

国境稜線

上越国境の白い峰々

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