早出川本流パックラフティング

2021年6月5〜6日 (山波441号) はせ、他1

〇6/5
07:00室谷川一ノ俣沢に入渓 09:00一ノ俣沢遡行終了、アカッパ沢下降開始 10:00アカッパ沢出合~割岩沢出合
~広倉沢出合~大釜淵 16:00ドウガン沢手前で幕営
〇6/6
07:00出発 09:30シゴヤ淵 15:50中杉沢出合 17:30バックウォーターの泥壁脱出 18:00駒の神 20:00早出川ダム

新しい刺激的な体験は、ワクワクして、でも少しドキドキして、やがてキラキラした思い出になる。
まだ雪解け水の冷たさが染み入る6月初旬、川内山塊というマイナーな山域で、ろくに経験もないパックラフト(空気で膨らませる小型の舟)でゴルジュを下るという自由な山遊びを堪能してきた。
そもそもの始まりは友人の慧ちゃんが「パックラフトでしか行けない場所で沢登りしよう!」と言い出したことが発端である。もうその言葉だけで既に魅力的なのだが、パックラフトでググって出てきたBBGの記事(http://bbg-mountain.com/2017/04/28/packraft1/)がトドメを刺した。翌週、僕の手元には超軽量パックラフトが既に届いていた。
今回狙いを定めた早出川本流は、遡行者こそ少ないが沢登りの対象としても知られ、遡行グレードは5級上のひたすら泳力を要求される沢だ。早出川周辺の川内山塊は登山道があまりなく、夏場はブヨ、アブ、ヒルといった害虫だらけのため物好き以外寄り付かないが、豪雪に削り取られた渓相は実に美しい。
計画では尾根を挟んで東の室谷から入山し、一ノ俣沢を遡行して峠越えしてアカッパ沢を下降、今早出沢に下り立ち早出川本流をパックラフトで下って早出川ダムまで湖を漕ぐという行程だ。
早朝に早出川ダムに車を一台デポして、入山口である室谷へ移動し、一ノ俣沢へ入渓。ただのアプローチのつもりだったが滑床がとても美しく、東京近郊にあれば間違いなく人気の出そうな沢である。
サクッと2時間で遡行を終え、アカッパ沢を下ると待ちに待った早出川に出合った。ザラ瀬(舟の底が擦る浅い瀬)混じりでちゃんと漕げるか怪しいが、早速パックラフトを膨らませた。期待も膨らみすぎてワクワクが止まらない。10年前に初めて沢登りを体験したとき、世の中にはこんなに面白い遊びがあるのか!と高揚した覚えがあるが、そのときのような気分である。自然相手の未知の遊びはなぜこんなにも期待が高まるのだろうか。
通過できない瀬やゴーロ帯も多く半分程度は舟を担ぎ上げての歩きであるが、それもまた楽しみの一つ。遡行であれば必死に泳いで突破しなければならない閉塞感のあるおどろおどろしい淵も、水面に浮かびながらゆったりと下れば神秘的な空間に見えてくる。水深の十分な瀬で波に乗ればさながら遊園地のアトラクションのようである。
しかし調子に乗って沢を下っていくと大釜淵の滝で舟ごとひっくり返された。川幅が急激に狭くなるそのゴルジュでは、落差1mにも満たない滝が轟々と飛沫を上げて荒ぶっており、パックラフトで突っ込んだ途端に為すすべもなく放り出されてしまった。ライフジャケットを着用しているとはいえ、空気を含んだ比重の軽いホワイトウォーターではバタ足をしなければ頭まで水に沈んでしまう。
20mほど流され、ゴルジュ内の窪みに身を寄せることができたが、今度はパックラフトとザックが流れてこない。残されたのは握りしめたパドルだけである。どうやら滝壺のバックウォッシュに掴まってしまったようだ。寒さで身体が震えるが、意を決してボルダリーな側壁のヘツリをこなし、どうにか回収。もし荷物が回収できなかったとしたら悲壮な脱出劇となっていたに違いない。水怖い。
今回のアクシデントは大釜淵の沈だけではなかった。下降中に僕のパックラフトの気室が裂けてしまったのだ。二人揃ってめちゃめちゃ軽量化に振ったパックラフトを買ったので、正直穴は空くかもしれないと思っていた。しかし予想外なことに持参していったダクトテープで修理ができなかったのだ。いや、始めは問題なく穴が塞げていた。空気を入れても全く萎まず。
しかし僕らのパックラフト特有の生地の問題で、どんなに丁寧にダクトテープで修理しても小一時間も水に浸けているとテープと生地の間に水が入り込み剥がれてしまうのだった。なんという欠陥製品だろうか!!F*ckin’ klymit!!!
小一時間下っては30分以上かけて修理し、また下っては修理し、結局4時間以上もパックラフトの修理に時間を費やした挙げ句、ダム湖のバックウォーターに辿り着く頃にコイツはどうやっても直らないんだということを理解した。
このまま湖を漕ぎ始めれば、カチカチ山の泥舟に乗ったタヌキになることは必至である。平常時より14mも水位の下がったバックウォーターの周囲は腐臭の漂う泥で囲まれていたが、命には代えられまいと急峻な泥壁をキックステップで這い上がり、何とか湖岸道まで脱出することができた。
計画ではパックラフトで楽々下って2日目の昼頃には下山しているお気楽日程のはずだったのだが、結局真っ暗になってからの20時下山となってしまった。脚にはヒルが9匹も付いていた。
パックラフティングの楽しさを伝えるはずがアクシデントの話ばかりになってしまったが、それでもなお、今回の旅は大変魅力的だった。未経験のことであればそうすんなりと事は運ばないが、怪我さえしなければ多少の困難は進んで受け入れよう。未知の世界に入り込む刺激的な体験は何事にも代えがたい。膨らむ不安と期待を冷静に両立させることが、自分にとっての魅力的な山行なんだと改めて感じる最高の経験だった。


爽やかな旅の始まり


底の着く瀬は歩いて通過


シゴヤ淵の通過

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